未精製のほうがいいというのは植物油に限らず、米や麦でも同じことで、種の保存にも必要な有効成分は現実にはほとんど捨てられているもののなかにある。
むかしから動物性、植物性を問わず脂肪総量の摂取を制限しようとの動きがあった。
食物中の脂肪摂取量をヨーロッパでは三五パーセント以内に抑えようとし、アメリカでは三〇パーセント以内に、わが国でも二五パーセント以内に制限しようとしてきた。
ただ食物全体のカロリー総摂取量が多すぎると結果として体内に脂肪がたまってくることもあり、脂肪だけを悪ものとすることに対する異論もある。
脂肪摂取制限は言うは易く行うは難しである。
うまくいかない理由は、脂肪は舌ざわりがよく、また多くの食品の味づくりの基本要素になっているし、文明生活のなかで贅沢になれた人間は脂肪の味を忘れ難いからである。
身近なことで言えばアイスクリームのおいしさ、牛乳のおいしさ、寿司のトロのおいしさはすべて脂肪の質と量に依存するといっていいであろう。
脂肪のとりすぎ対策は、脂肪をとらないか、脂肪の代りに「人工脂肪」を開発していくしかない。
脂肪は食べたいが、生命は惜しいというところである。
最近商品化された「人工脂肪」の風味は本物の脂肪と変わらないで、しかもカロリーはゼロ。
現在、世界には三〇種ほどの人工脂肪(たとえばオレステラなど)が出ている。
先にカロリー制限が長寿をもたらす可能性について述べたが、ここでは逆に食べ過ぎ(カロリーの過剰摂取)の弊害に触れる。
食べ過ぎは第一に食品中にふくまれる発がん物質の総摂取量を多くするし、また細胞の代謝を促進し、細胞分裂の促進に働く。
このような細胞は遺伝子障害をおこしやすく結果的にがんとも結びつく。
そうはいっても腹一杯食べたいというのも人間の自然な気持ちである。
ただ食べ過ぎるとやがて肥満がおこる。
肥満はがんの危険率を高くし、肥満の程度に応じがんの危険率は高くなる。
H博士によると、とくに女性の肥満が一四〇以上にまで進むと胆管がんと子宮内膜がんのほか、ほとんどの臓器がんのリスクをあげる。
なぜ肥満はがんのリスクを上昇させるのだろうか。
肥満は脂肪の体内への蓄積によって起こるが、肥満ががんへの引き金になるのは、つまりは脂肪の取り過ぎと同じことで、おそらくエストロジェン―作用の上昇、免疫活性の低下などが起こるからと考えられすべて個人差があり、またすべて程度問題である。
大食で長生きの人もたくさんいるから決めつけはできない。
食品のなかでも肉製品の取り過ぎが身体によくないというが、少なくともその適量摂取は胃がん、肝硬変、肝がんの誘因になりやすい状況を予防するのに好ましい食品である。
したがって状況に応じていいものはとることを意図し、また悪いものは避けて、バランスを考えながらもあまり気にしないことではないか。
食べ過ぎはよくないようだが、「食べ合わせ」も一考を要する。
むかしはうなぎと梅干、たことワラビ、天ぷらとスイカ、蟹としいたけ、豚肉とショウガの食べ合わせがいけないとされた。
当時は油っこいものや消化の悪い食品と、冷たいものや水分の多い食べものとの組み合わせが身体によくないという単純な考えであった。
最近食べ合わせはあまり言われなくなったが、その原理はいまにも生きている。
といっても、むかしのような食品と食品の食べ合わせではなく、二つの成分同士の食べ合わせである。
有名なのは亜硝酸と二級アミンの取り合わせで、この二つの物質が一緒になると、胃のなかにN-ニトロソアミンという発がん物質が作られるというのである。
食品でいうと、亜硝酸の含まれる漬物の野菜(漬物にすることで硝酸塩が還元されて亜硝酸になる)と、二級アミンの入っている魚を一緒に食べると胃のなかで発がん物質ができるということになる。
ところが実際の心配はどうなのだろうか。
亜硝酸はむかしはスジコやタラコの美味しそうな色出しに使われたが、いまはほとんど使用されていない。
それどころか野菜のビタミンCなどの抗酸化物質がニトロソアミンの発がん性を抑えるといわれている。
野菜と魚は日本人の好む和食の代表的食材であり、一緒に食べることは大いに結構であろう。
この作用を抑えるものの一つがSOD(ス一パーオキシドディスムターゼ)である。
最近は「一日三〇品目以上」を食べることが望ましいと推奨されている。
食べ合わせの危険よりも、むしろ足りないものを補完しあい、それによって疾病を予防していく利点が強調されるようになってきた。
SODの活性の高い動物種ほど長生きするともいわれる。
現代の健全で豊かな食生活とは食べ過ぎることなく、偏食を避けSOD活性が高くなるように、なんでも種類多く美味しく食べることだといってよい。
一九九一年のある日、アメリカのCBSテレビが「フランス人はチーズもバターも肉もたくさん食べ、またタバコも吸っている割には心筋梗塞が少ないのはなぜか。
この不思議な現象を「フレンチパラドックス」といい、その原因としてはフランス人が赤ワインをよく飲むからではないかと考えられる」という話を紹介したのである。
さらにワインが身体にいい根拠として、赤ワインにふくまれるポリフェノールなどによる抗酸化作用(とくに活性酸素の働きを抑えるSOD活性など)があるからではないかとも報じた。
SODはさきに触れたようにスーパーオキシドという活性酸素(酸素ラジカルともいう)の働きを抑える酵素のことである。
酸素ラジカルは動脈硬化、がんなどの疾病の共通の原因になると考えられている。
これが細胞の遺伝子に傷をつける(突然変異を起こす)ことによっていろいろな疾病を起こすわけだが、SODはこのような酸素ラジカルの働きを抑える。
CBSのテレビ番組放送の日からアメリカの赤ワインは急に売れ出したという。
そして次第に世界中のワインブームに火がついていく。
ポリフェノールなどによる抗酸化作用(とくにSOD活性)はどんな種類のワインにでもみられるようだが、とくに赤ワインで強いという。
しかもそれらの含量とか活性の強さは産地、銘柄、生産年など、いろいろ条件によって違ってくる。
そうはいってもワインを飲むときはこんな小むずかしい化学物質の存在を気にして飲む人もいない。
味がよくて愉しく飲めればいいのである。
だから赤ワインに限らず白ワインだって、あるいは日本酒だって焼酎だっていいのである。
事実、きまって適量の晩酌をたのしむ人は長命だともいう。
「酒は万能の薬」「百薬の長」でもあり、程よく飲む限り生活習慣病(成人病)を予防し、長命、長寿をもたらすようである。
赤ワインの効用は単にポリフェノール(そのSOD活性)だけでもないようだ。
おそらくお酒を飲む雰囲気が日中のストレスを解放し、周囲の人達や家族とのやすらぎを持てるからではないか。
さきに述べた「フレンチパラドックス」もひょっとすると彼等が時間を十分かけ楽しく食事をするリラックスした雰囲気にこそ意味があるのかもしれない。
ただし赤ワインがいかに身体にいいといっても、飲み過ぎが身体にいいことはない。
「過ぎたるは及ばざるが如し」でむしろ逆効果であろう。
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